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4.ストレスやこころの病の回復に役立つ方法とは
これまでにストレスとうつ病の関係を説明してきました。そして、こうしたストレスやうつ病に対する有効な方法が認知行動療法になります。認知行動療法は20世紀の半ばに誕生し、今から半世紀程度前の1977年にはRCT(randomized controlled trial)が実施され薬と同等の効果があることが科学上証明されています。その後も様々なこころの病や問題への研究が積み重ねられており、メンタルヘルス対策の最先端技術が詰まっている方法論といえます。そのため米国精神学会や英国国立医療技術評価機構など様々なガイドラインで認知行動療法が推奨されています。アメリカ心理学会ディビジョン12を参考にすると認知行動療法は「うつ病」「全般性不安障害」「パニック障害」「社交不安障害」「PTSD」「強迫性障害」「不眠症」などに対して最も高いレベルで有効性を裏付ける証拠(研究)があると評価しています。また日本においても「うつ病」「パニック障害」などのこころの病に対する認知行動療法のマニュアルが作られており、安全で有効性の認められた認知行動療法は国内でも展開されつつあります。
5.認知行動療法におけるストレス理解
それでは認知行動療法で「ストレス」や「悩み」といった問題をどのように扱うかを説明します。認知行動療法は科学に基づく方法論であるため今まで説明してきたストレッサーの話や職業性ストレスモデルとだいたい同じ内容になります。そのため理解もしやすいと思います。まず、認知行動療法では問題は「環境(状況)」と「個人」の相互作用で生じると考えます。状況とは問題のきっかけや引き金、トリガーとなった出来事や状況、場所、人などを指します。ストレッサーと考えてよいでしょう。個人とはその人に生じるストレス反応を指します。具体的には「考え」「気分」「身体」「行動」に分けて整理します(これまで説明してきたストレスモデルに「考え」が加わります)。加えて個人の中でも相互作用が生じると捉えます。簡単にまとめると、認知行動療法ではストレスは状況と個人、そして、個人内の相互作用によって生み出される、つまり、ストレスは悪循環によって生じると理解します。
分かりやすくなるようにストレスの例をあげてみます。Aさんは朝、上長に挨拶しましたが返事がありませんでした(ストレスになった出来事)。Aさんは「上長は昨日の失敗をまだ怒っているのかもしれない」と思い(考え)、ドキドキと動悸がしてきました(身体)。Aさんは不安になり(気分)、上長に「昨日はミスをしてすみませんでした」と謝罪すると(行動)、上長は「そういえば昨日君は〇〇の案件をミスしていたな。いい加減な気持ちで仕事をしないように」と言われました(ストレスになる出来事)。Aさんは「朝から説教を受けてしまった。今日は最悪な日だ」と思い(考え)、しばらく落ち込みました(気分)。
Aさんの例を認知行動療法のモデルで考えると「状況(上司が挨拶に返事をしない)」→「考え(自分が昨日ミスをしたせいだ)」→「身体(動悸))」→「気分(不安)」→「行動(謝罪)」→「状況(上司から注意される)」→「考え(最悪だ)」→「気分(落ち込み)」という悪循環になります。
ストレスの理解のポイントは3つになります。1つはストレスには「きっかけ」があるということです。漠然とした不安、なんとなくだるいと思うときでも、「出来事(何があったか、何をしていたか)」「場所(どこにいたか)」「人(誰とあっていたか)」など何かしらの引き金になる要素がなかったか確認をしてみましょう。上記の例では「上長に挨拶したが返事がない」という出来事が引き金になっています。ポイントの2つ目は「考え(そのときにどのような考えが浮かんだか)」になります。「考え」はその後の気分や身体、行動に影響を与えるキー要素です。思い浮かんだ「考え」は個人内のストレス反応に強く影響を与えます。この例では「上長は昨日の失敗を怒っているかもしれない」という「考え」が浮かび「身体(動悸)」、「気分(不安)」、「行動(謝罪)」のそれぞれに影響を与えていることが分かります。ポイントの3つ目は「行動」になります。行動は個人内だけではなく状況にも影響を与えることが特徴です。例えば、上記の例では「上長に謝る」という行動をした結果、上長から「いい加減な気持ちで仕事をするな」という新たなストレッサーが発生し悪循環が続いています。
最後にストレスの対処について簡単にまとめます。認知行動療法ではストレスを悪循環の問題と捉えますので対処は悪循環を断ち切ることになります。悪循環を断ち切るポイントは「考え」と「行動」になります。1つ1つの要素に分けて考えてみましょう。まず状況に関しては自分の思うように必ずしも変えられません。例であれば「上長に返事をさせる」「上長に不愉快なことをいわなせない」など他者を変えることは難しいといえるでしょう。また、上長がストレッサーだとしても上長を職場(環境)から排除するというわけにもいきません。そして、できないことを思い続けてもストレスの悪循環は続き気分が悪化するだけでしょう。加えて「気分」や「身体」も直接的に変化させることは難しいです。落ち込んでいるときに自分に「落ち込むな」と命令しても落ち込みは消えないですし、疲れているときに「疲労回復」と唱えても疲れはとれないでしょう。このように「気分」や「身体」は直接的に変化させることが難しいものといえます。無理やり気分や身体の状態を変えようとするより「ストレスによりそれだけのダメージを受けた」と気づいた方がよいでしょう。悪循環を断ち切るポイントは「考え」と「行動」の調整になります。例でいえば「上長は昨日の失敗をまだ怒っているのかもしれない」という「考え」が出ていますが、そのあとで「でも、そうではなくて奥さんと喧嘩して機嫌が悪いのかも」とか「あの人は気分屋で機嫌が悪いと挨拶しない」など別の考え方ができれば、その後の気分や行動も変わってくるでしょう。実際のところ、人のこころを100%完璧に「あの人はこう考えている」と断定することはできないので、正しいか間違っているかという以前に幅のある捉え方ができた方が健全といえるでしょう。また「行動」においても「動悸もするし気分も悪いからちょっと休憩しよう」と思ってコーヒーを飲んだり、深呼吸したり、ストレッチをするなど自分が落ち着くセルフケア(行動)ができれば、その後の結果も変わってくるでしょう。このように「正しい、間違っている」とか「良い、悪い」ではなく、他の捉え方(「考え」)や行動を試して悪循環を断ち切り、気持ちを軽くしていくことが認知行動療法のストレス対処の基本になります。
現代のストレス学においても医学的な理解においてもストレスの理解と対処には認知行動療法の枠組みが用いられています。認知行動療法を学び、日常生活での実践を通してストレスのコントロールやケア方法を習得していきましょう。初めて聞いた内容も多く難しい点もあったと思います。何事も最初はそんなものです。これからワークで練習していくので1つ1つゆっくりと習得していきましょう。
(第5回に続く)
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